『 風 ― (1) ― 』
カタカタカタ ・・・・
よ〜〜く知ってる足音が 店の方にかけてくる。
ふふふ〜〜 今日は10分遅れか ・・・
ま フランにしちゃ がんばった方だよな
ズズズ −−− ジョーは飲みかけのシェイクを勢いよく吸った。
タタタ ・・・
いらっしゃいませぇ〜〜 の声と一緒にこれもよ〜〜く知ってる靴音が
こちらにやってくる。
「 ふう ・・・ ごめんなさあ〜〜い 待ったあ? 」
大きなバッグを抱え ほっぺを赤くして ― 彼女がジョーの前に立っている。
「 あ フランソワーズ。 ぼくも今 きたとこ。 」
ジョーは 何気な〜〜い風に顔をあげ に・・・っと笑ってみた。
「 そうなの? よかった〜〜〜 ・・・ はあ 〜〜
ずっと走ってきたから ・・・ 」
ドサ。 彼女は大きなバッグを彼の向かい側の席に置いた。
「 ああ ・・・ お腹すいた〜〜 ちょっとなんか買ってくるわ 」
「 うん。 」
「 ジョーはなに? 」
「 ぼく? びっぐ○○○ 」
「 ふ〜〜ん ・・・ ちょ〜高カロリーね ヤバそう ・・・ 」
「 あ 月見 とかあるみたいだよ 」
「 つきみ?? 」
「 そ。 目玉焼き みたいなのが入ってるヤツ。
季節限定 だってさ。 」
「 あ そう? それにするわ〜〜 ちょっと待っててね 」
彼女は スマホを手にカウンターに駆けていった。
あ は。 か〜〜わい〜〜〜〜〜
えっへん みなさ〜〜ん
彼女は ぼくのカノジョ ( 予定 ) なんで〜すう〜〜
ジョーは一人 にんま〜〜り するのだった。
「 うっふっふ〜〜 いい匂い〜〜 」
すぐにトレイを捧げ 笑顔で彼女は戻ってきた。
「 いっただっきまあ〜す♪ 」
「 はい どうぞ〜 」
「 ・・・ おいし! これ 美味しいわあ 」
「 そっか〜〜 あ ぼく こーひー お代わりしてくるね 」
「 うん。 あ〜〜 おいし〜〜 」
彼女は 夢中でぱくぱく・・・ 月見 を食べている。
「 ・・・ へへ またシェイクにしちゃった〜 」
「 あ〜〜 それってカロリー高いの 知ってる? 」
「 そうなの? 」
「 そ! ・・・ あ〜〜 ジョーはいいわねえ〜〜〜
ビッグ○○○ 食べても シェイク何本飲んでも 太らないもんね 」
「 あ は ・・・ 効率悪いよね 」
「 う〜〜〜 ケーキとか死ぬのほど食べてみたい〜〜 」
「 ダメ なの? 」
「 ・・・ わたし ね。 余分なモノ、食べればちゃ〜んと
太っちゃうの。 」
「 だって軽いよ、フラン。 」
「 のん のん。 パートナーはね〜〜 ジョーみたく力持ちじゃないのぉ 」
「 ふ〜ん ・・・ 」
「 あ ・・・ でもおいし〜〜 これ♪ 」
「 よかったぁ〜 あ ・・・ タピオカとかの方がよかったかなあ 」
「 タピオカ? ああ 流行ってるわよね〜 」
「 フランも好き? 」
「 ん〜〜 でもダメよ、あれ 太るもん。 」
「 そ そうなんだ? 」
「 そうよぉ〜〜 だってあれ、デンプンでしょう? 」
「 さ あ・・・? なにか植物だろ?
」
「 でもだめ。 カロリー 高いもん。 カンテンの方がいいわ。 」
「 ふ〜〜ん そうなんだ・・・ あ 仕事、 どう?
次の公演ってなに踊るの? 」
「 あ〜〜 今度はねえ 『 レ・シル 』 が回ってきたの 」
「 れ しる??? 」
「 あ 知らないわよね 『 レ・シルフィード 』 って・・
空気の精 なの。 」
「 空気の精??? 空気って この空気? 」
ジョーは手をひらひら〜〜〜 させている。
「 そ。 特にストーリーはないのね 」
「 ・・・ 組むの? オトコとさ 」
「 うん。 一応・・・ ソロとあとちょっとね。
だから〜〜〜 空気の精 が太ってたらまずいでしょ 」
「 ・・・ 食いしん坊の空気の精もいるかも・・・ 」
「 え〜〜〜 あは そうねえ ・・・
ジョーって 面白い〜〜〜 」
フランソワーズは 月見 を齧りつつけらけら笑った。
「 あ 面白い かな・・・? 」
「 うん! 大好きよ〜〜 」
「 え! ・・・ えへへ 〜〜 」
彼は一人で赤くなっている。
あは ・・・ なんか気が楽になってきたわ
ふふふ ジョーって不思議なヒト・・・
話してると ほわ〜〜ん とした気分になるの
「 あ〜〜〜 つきみ は美味しいし〜 ・・・
あ ねえ ジョー? 」
「 うん なに 」
「 うん・・・ ジョーはどう? 仕事・・・
カメラの勉強、始めたって言ってたでしょう どんなかんじ? 」
「 あ うん ・・・ そうだなあ 〜〜〜
面白くて ムズカシイよ 」
「 カメラ・・・って そんなに難しい機械なの?
今のカメラって オートなのでしょ? 」
「 あ ぼく、手動のカメラ、使ってるんだ。 まだ使い熟せてないけど・・・
いや〜 なんていうか ・・・ 奥が深い ってのかな。
それにさ カメラの操作だけじゃないんだ。 被写体の選び方とか
撮る角度とか ・・・ 」
「 ひしゃたい? 」
「 そ。 なにを撮るか どう撮るか ってこと。 」
「 あ〜 そういうこと ・・・・ カメラのテクニックだけじゃ
ダメなのね 」
「 そりゃ テクは必要だけどね。 」
「 ジョーは どんな作品を仕上げたいの? 」
「 悩み中・・・ 」
「 そうなんだ ・・・ 雑誌の仕事に使うのでしょ? 」
「 そうなれればなあ〜 って思ってる。
いろんな写真、撮れるようになりたい。 まだまだ < 見習い > 。 」
「 ふうん ・・・ 今は練習中? 」
「 ウン。 この偉大なる相棒と仲良くならないとね〜 」
彼は 側に置いているカメラをそっと撫でた。
「 あ そのカメラね コズミ先生に頂いたのって 」
「 うん♪ カメラの教室に通い始めたって話をしたらね
コズミ先生が ・・・ ほら この前、博士のお使いで
届け物に行っただろ? 」
「 ああ そうだったわねえ 」
「 その時にさ ・・・
あの日 ―
コズミ博士は ジョーを座敷に通てくれた。
「 あ・・・ 玄関で・・・ 」
「 いやいや わざわざ届けてくれたのじゃから
上がってくだされや。 冷たいモノでも飲んで 」
「 は はい ・・・ 」
「 ワシも ギルモア君の < 荷物 > を 確認せにゃな 」
「 はい それじゃ ・・・ 失礼します 」
ジョーは 行儀よく玄関でスニーカーを脱いだ。
カラン ・・・ 氷入りのお茶はとても美味しかった。
届け物をしっかり渡し ほっとした後はぼしょぼしょ近況報告を
始め だんだんと話が弾みだした。
「 ほう? ジョーくんはカメラマン志望かい 」
「 あ ・・・ そんなのじゃなくて バイトの取材とかに
役立つかな〜〜って思って 」
「 ほうほう なるほど〜〜 で カメラは? 」
「 とりあえず スマホでいいか〜〜って 」
「 いずれは仕事に使いたいのだろう? 」
「 そうなればなあ〜 って ・・・ 」
「 それならちゃんとカメラを用意せんとな 」
「 えへ バイト代ためて デジカメ 買えればなあ〜 って
思ってるんです〜〜 」
「 デジカメ? ・・・ う〜〜ん ・・・
ああ そうじゃ そうじゃ アレがあったなあ
ちょいと待ってておくれ 」
「 はあ ・・・ 」
コズミ博士は 奥に引っ込んでしばらくゴソゴソやっていた。
あ〜〜〜 いいなあ ・・・ この部屋・・・
ジョーは う〜〜ん ・・・ と伸びをすると
ばたん と 座敷に仰向けになった。
天井は高く廊下に向かって開け放たれているので
涼しい風が 入ってくるのだ。
・・・ あっは ・・・ きもちい〜〜〜
「 ジョー君 ? こりゃ お昼寝中かい 」
「 !? あっ す すいません〜〜〜〜 」
転寝してしまったジョー、 慌てて飛び起きた。
「 よいよい ・・ なんなら昼寝してゆくかね 」
「 え い いえ ・・・ すいませんでした。 」
「 ふぉ ふぉ ふぉ 若い頃は眠いものよなあ 」
コズミ博士は鷹揚に笑っている。
「 ほい 冷たい麦茶じゃよ それと これ 」
露を結ぶグラスと共に 古びた箱が置かれた。
「 ? 」
「 ワシの若いころのもんじゃが〜〜 モノはいいんでねえ 」
開けてごらん、と コズミ氏は箱をジョーの方に押しやった。
「 いいんです か? 」
「 おう。 」
「 ・・・ わ あ ・・・ これって 〜〜 」
それは 初心者のジョーにでもわかる カメラの名品 だった。
「 まあ〜〜 古びてるけどなあ 壊れてないと思う。
よかったら使っておくれ 」
「 え!?? ・・・ そ そんな〜〜〜 ぼくなんかに
こんな ・・・ うわ〜〜〜〜
」
「 ほっほっ いつか コイツに負けない作品を撮れるように
なれることを 願っておるよ 」
「 は はい ・・・!!! 」
・・・ ってことで 頂いたんだ 」
「 すっご〜〜い〜〜〜 ねえ わたしも見たこと、あるわよ?
伝統がある有名なカメラじゃないの? 」
「 うん。 とてもぼくなんかが持てるもんじゃないんだ。
だから ・・・ 今はデジカメで練習してる。
これは ・・・ えへ お護りっていうか 決意表明とか
・・・ 見せびらかしたい〜〜って気分もあるけど 」
「 あ わかる〜〜〜〜 」
「 いつか これで・・・って思ってる。
なかなかキビシイけど さ 」
「 そっか〜〜 そうよねえ・・・ アートは厳しいのよねえ 」
「 アート? ・・・そう かもなあ ・・・ 写真はアートだよなあ
フランと一緒かも ・・・ 」
「 そうね そうね 」
「 う〜ん ・・・ そうだね うん。
あ うん ・・・ そっか〜〜 うん! 」
ジョーは なにかヒントを掴んだ風にみえた。
「 ジョー。 がんばっちゃう ? 」
「 ん。 がんばる〜〜 」
「 あ っは。 ジョー がいてくれてよ〜〜かったわ♪ 」
「 え そ そう? 」
「 ウン♪ わたしも 頑張るわ ちょっと困ってたんだけど
なんか やる気 もらっちゃったわ 」
「 えへ・・・ ぼくも さ 」
「 ね? 」
「 うん 」
二人は 中坊のカップルみたいにほっぺを染めて見つめあっていた。
「 あのね ・・・ 聞いてくれる? 」
「 うん なに 」
「 あの ね。 今日のリハーサルでね ・・・ 」
「 うん 」
「 ・・・ なんか うまくゆかなくて ・・・
」
フランソワーズは ついさっき、終わったリハーサルのことを
思い返していた。
*************
〜〜〜〜♪♪ ショパンのノクターンが軽やかに流れる。
「 ・・・ ! 」
最後の音と一緒に 踊り手はポーズを決めた。
「 ・・・・ 」
カツン。 マダムが靴音を立てた。
「 フランソワーズ。 貴女、今の踊り どう感じてる? 」
「 ・・・え ・・・? 」
「 振りは勿論 合ってるし 音にも乗ってたわ。
この踊り、難しいテクニックはほとんどないわよね 」
「 ・・・ ・・・ 」
「 だから 余計に難しいと思うのね。 」
「 はあ ・・・ 」
「 レ・シル って ― あのねえ 空気の精 なのよ?
貴女の今の踊り方、なんか とても無機質。 金属的に感じるわ 」
き 金属 ・・・?
や やだ ・・・
フランソワーズは 血の気が引く想いだった。
すぅ〜〜っと 無意識に自分の手を < 視て > しまう。
そこには ぎっしりと機械が 冷たい金属が 詰まっていた。
・・・機械の 手 ・・・
そうよ わたし、中身は金属なのよ
踊っていると わかってしまう の・・・?
「 あ それから ピルエットね〜 アンデイオール、アンデダンの連続のとこ
は 両方ともダブル。 当然でしょ。 」
「 は はい ・・・・ えっと 」
フランソワーズは すぐにその部分 ― ピルエット・アンデイオール と
アンデダン を くるくるとダブルで続けて回ってみせた。
「 あ〜〜 ・・・ 」
「 ・・・? 」
「 あのね、この踊りは ワルツ。 三拍子。 今のは あなた、 ただ回っただけ。 」
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 レッスンじゃないのよ? シルフィード として回ってちょうだい。 」
「 ・・・ は はい 」
「 今回の 『 レ・シル 』 は ワルツは フランソワーズ
マズルカは リエ、 プレリュード は メグミ に
踊ってもらうの。 振り自体は難しくないでしょう? どの踊りも。
だから ― さっきも言ったけど なおさら大変よね? 」
「 ・・・ あ そ そうですね 」
ふふん ・・・ と マダムは不思議な笑みを浮かべている。
「 よ〜〜〜く 考えてみて?
貴女ならどう踊る? 貴女の 空気の精 を踊ってほしいの。 」
「 ・・・ は はい ・・・ 」
「 次のリハ 期待してるわ。 リエやメグミも 奮戦してるわよ〜 」
じゃあ ね、お疲れさま・・・と マダムはスタジオを出ていった。
空気の精 ・・・ 空気 ・・・・?
金属のわたしが 踊れる ・・・ わけ ない・・・
カツ ― ン ・・・ 履き慣れたポアントが とても重く感じた。
サ −−−−−−− 頭からシャワーを浴びた
身体だけじゃなくて アタマも冷やしたかったし 涙も流したかったから・・・
「 ・・・ ふう 〜〜〜 ・・・
ああ 少しはさっぱりした かも ・・・ 」
シャワー・ブースから出て びしょくたの髪を拭く。
「 ・・・ あ〜あ ・・・ 汗はちゃんと流れるのに。
涙もちゃん零れるのに ― わたしは 金属でできてる ・・・ 」
ガサゴソ ・・・ 大きなバッグの中から新しいタオルを探す。
「 えっと ・・・ もう一枚 もってきた はず ・・・ 」
あ。 あ! 待ち合わせ してたんだ〜〜 !!
突如 ジョーとの約束を思い出した!
「 きゃ〜〜〜〜〜 いっけな〜〜〜い〜〜〜〜〜 !!!!
わ〜〜〜 髪 びしょびしょ・・・ どうしよう 〜〜〜〜
」
フランソワーズは 下着姿のまま、 更衣室の中でうろうろ焦りまくっていた。
「 わ〜〜〜ん どうしよう ・・・ 」
― バタン。 更衣室のドアが開き 汗まみれの女性が入ってきた。
「 はあ〜〜〜 終わった 終わった ・・・ 」
「 ・・・ あ さゆり先輩 お疲れさまでした 」
「 あらあ フランソワーズ ・・・ そっちも終わったのぉ? 」
「 は はい ・・・
」
「 お疲れさま〜 あ〜〜 もう 今日のことは忘れよっと ・・・
あら どうしたの? ・・・ 具合 わるい? 」
フランソワーズよりすこし年上の彼女は 稽古着を脱ぎ始めていたが
あれ、という顔をした。
なにしろ いつも大人しい後輩が 髪から雫を垂らしたまま
呆然としているのだ。
「 いえ あの ・・・ 髪 びしょびしょで 」
「 あ〜 」
「 友達との約束 わすれてて・・・ どうしよう〜〜〜 」
「 ? まずは髪、拭いて 急げば? 」
「 あ! そうですよね 」
「 ?? ねえ 大丈夫? ・・・ あ〜〜 リハ、マダムにしごかれた? 」
「 ・・・ は はい ・・・ 」
「 あはは そりゃ アタマからシャワーしたくなるわよねえ ・・・
私だって 水かぶりたいもん ま あんまし気にしないことよ。
今日のことは もう忘れること。 」
「 は はい ・・・ そうです ね 」
「 そ。 ぐだぐだ引きずらないで 次 頑張る〜〜 オッケ? 」
「 は はい ・・・でも 」
「 ? 」
「 約束あるのに〜〜 どうしよう こんな髪で ・・・ 」
「 あっは♪ デート? 」
「 え い いえ ランチたべよって ・・・ 友達と 」
「 そ〜かい そ〜かい☆ あ〜 あのイケメン君かあ〜 」
「 え いえ そのう〜〜 」
「 あの茶髪彼氏 でしょう? 優しそうだよね〜〜〜 」
「 え ええ ・・・ 」
「 公演の時とか 迎えに来てくれてるじゃん? 皆 知ってるわ。
大荷物、ひょいって持ってくれてさ〜〜〜 いいな〜
うふふ〜〜〜 お似合いよん♪ 」
「 あ そ そうですか 」
「 そうです♪ 」
「 ・・・ 」
「 大丈夫。 ちゃ〜〜〜んと カワイイ から! 」
「 は はい ・・・ 」
「 だから! さっさと 髪 拭いて 〜〜 急げっ 」
「 は はい 」
フランソワーズは あたふた支度を始めた。
「 ・・・ お お先にシツレイします〜〜〜
」
結局、金色の髪から雫をとばしつつ 更衣室を飛び出していった。
「 やれやれ・・・ ホント 天然なんだなあ あのコ・・・
ま そこが カワイイんだけどね〜〜〜
あ〜〜〜〜 私も 頭からしゃわ〜〜〜 しよっと 」
先輩は 勢いよくシャワー・ブースに飛び込んだ。
**************
お腹が満たされると 気分的にも余裕がでてくる。
ジョーも フランソワーズも のんびりした雰囲気になってきた。
「 ふうん? ・・・ ねえ 髪、濡れてるよ? どしたの 」
「 え ・・・あ やだ〜〜 まだ乾いてないんだ 」
「 あ シャワー ?
」
「 そ。 アタマから シャワ〜〜〜 しちゃったのよ 」
「 あは 気持ちよさそ〜〜〜 」
「 だってねえ ・・・ わたし ちょっと苦戦してて ・・・
ここに来るまで ― 落ち込んでたの 」
「 落ち込んで? フラン 珍しいね 」
「 あらあ わたしだって落ち込むこと、あります。
リハで もうけちょん・けちょん よ〜〜 」
「 ・・・ 今回、ムズカシイ踊り なの? 」
「 ううん〜〜〜 テクニックは そんなに ・・・
でも ね ・・・ ねえ ジョー 聞いていい 」
「 ?? 」
「 空気の精 って どんな感じだと思う? 」
「 え??? く 空気の精? あ さっきも言ってたよね
ねえ ・・・ それって あ〜〜 ファンタジー? 」
「 ・・ う〜ん まあ そんなものかなあ 」
「 ファンタジーを踊るわけなんだ? 」
「 ・・・ そう でもないんだけど ・・・
月明かりの森でね〜〜 詩人が瞑想に耽りつつ散歩していると
妖精たちが 現れて 踊りました 〜〜 っていう設定なの。 」
「 ふ〜〜ん それだけしか縛りはないわけ ? 」
「 そうなんだけど ・・・ その不思議な妖精を踊るの
ふわふわ〜 というか ・・・ 向うが透けて見えそうな〜〜 」
「 へえええ あ ニンゲンじゃないんだものね
羽根とか生えてる? 」
「 ・・・ あ〜〜 生えてる! 衣装のね 背中・・・っていうか
この辺に 羽根がついてる時もあったわ 」
フランソワーズは ウェストの後ろ辺りで手をひらひらさせている。
「 ふうん 飛べるって いいよね 〜〜 」
「 そうよねえ ・・・ わたし その点はジェットが羨ましいのね
飛んでみたいなあ
」
「 そうだな〜〜 ぼくも ず〜〜っと飛べたらなあって思うな 」
「 わたしね こう〜〜 羽根が生えてて ふわ〜〜りふわふわ〜〜〜
ふぁさ〜〜〜って飛んでみたい♪ 」
「 フランらしいなあ あ それこそ 空気の精 じゃん♪ 」
「 え? あ ・・・ そう ね・・・
・・・ そっか〜〜〜 そう よねえ ・・・ 」
フランソワーズも、またなにかインスピレーションを 得たのかもしれない。
そう よねえ・・・ を繰り返しつつ じ〜っと目の前のテーブルを
見つめている。
「 羽根あるんだもん、 ふわ〜〜〜ん ・・と 浮いてたら
空気の妖精 かも。 空気って いっつもあるじゃん ほら 」
「 そう そうよねえ ・・・ 」
「 きっとさ〜 フランの空気の精は ふわ〜〜んふわふわ〜〜って
優しいんじゃないかな 」
「 え ・・・ 一応ねえ ワルツ・・・三拍子なの 」
「 ふうん 空気は三拍子 かあ ふうん 」
「 だからね〜〜 ピルエット・・・ って 連続で回るトコがあるんだけど
それもね 空気の精 として回らなくちゃならないの 」
「 ふうん ふう〜〜ん ・・・ 空気は 三拍子 かあ 」
「 この作品では ね。 現実に戻っちゃダメって。 」
「 へえ〜〜〜 」
「 他のダンスはよくわかんないけど ・・・
クラシック・バレエはね〜〜 現実じゃない世界 なのよ。
だから こう〜〜 現実っぽいとこ、見せちゃだめなの。 」
「 ふう〜〜〜ん へえ〜〜〜 非現実の世界 かあ・・・
あ だから 空気の精 とか 白鳥姫 とかなんだ? 」
「 多分・・・ 」
「 そっか〜〜〜 なるほど ・・・ ふ〜〜ん 」
今度は ジョーが 夢見る目つき をする番らしい。
温かい茶色の瞳が ほわ〜〜ん と中空を眺めている。
「 ? どうしたの ジョー 」
「 ・・・ え ・・・ あ ごめん〜〜〜
なんか ちょっと ・・・ いいなあ〜って思ってさ。 」
「 なにが 」
「 きみの さ、 非現実の世界 を表現するために 現実に汗流して
何回も何回も練習するんだよね 」
「 あ ・・・ そ そう かもしれないわね 」
「 そうだよ〜〜 うん・・・ 」
「 ― ありがと ジョー。 ちょっと なんか ・・・
浮上のきっかけ になりそう 〜〜 」
「 へえ そう? ぼくもさあ ・・・
なんか テーマにしたいモノが 見えてきたかも。 ぼんやりだけど 」
「 うふふ・・・ 」
「 えへ・・・ 」
ほんわ〜りした気分で 二人は見つめあっている。
― どこから見ても で〜と なのだが ・・・
え? お友達とランチしてたのよ?
びっぐ○○○ と シェイク、美味しかった〜〜
とても満足し いい〜〜〜気分で 二人は一緒に帰っていった。
― 数日後のこと ・・・
「 ふうん ・・・・ 」
「 チーフ ・・・ あのう ・・・? 」
ここは ジョーのバイト先の編集部。
昼休み、 彼はチーフを務める女性に写真を見てもらっていた。
「 ・・・ なかなか上達したよね 島ちゃん 」
「 そ そうですか ・・・ 」
「 あ〜 テクニックは なかなか。
聞くけど。 島ちゃんはなにを目指してるわけ? 」
「 ・・・ なに って ・・・ 」
「 報道写真? それとも アート系?
これ よく撮れてるけど 目的不明。 」
「 ・・・・・ 」
ジョーは ぽん、と返された写真をじ〜〜っと見つめていた。
彼の大事な女性 ( ひと ) の後ろ姿 を・・・
Last updated : 09,10,2019.
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********* 途中ですが
『 レ・シルフィード 』 については 調べていただければ
映像とかたくさんあると思います〜〜
なんか初々しい93になりそう・・・ (*^^)v