『  風  ― (1) ―  』

 

 

 

 

 

   カタカタカタ ・・・・  

 

よ〜〜く知ってる足音が 店の方にかけてくる。

 

    ふふふ〜〜 今日は10分遅れか ・・・

    ま フランにしちゃ がんばった方だよな

 

 ズズズ −−−  ジョーは飲みかけのシェイクを勢いよく吸った。

 

        タタタ ・・・ 

 

 いらっしゃいませぇ〜〜 の声と一緒にこれもよ〜〜く知ってる靴音が 

こちらにやってくる。

 

「 ふう ・・・ ごめんなさあ〜〜い  待ったあ? 」

大きなバッグを抱え ほっぺを赤くして ― 彼女がジョーの前に立っている。

「 あ フランソワーズ。  ぼくも今 きたとこ。 」

ジョーは 何気な〜〜い風に顔をあげ に・・・っと笑ってみた。

「 そうなの? よかった〜〜〜  ・・・ はあ 〜〜

 ずっと走ってきたから ・・・ 」

ドサ。 彼女は大きなバッグを彼の向かい側の席に置いた。

「 ああ ・・・ お腹すいた〜〜  ちょっとなんか買ってくるわ 」

「 うん。 」

「 ジョーはなに? 」

「 ぼく? びっぐ○○○ 」

「 ふ〜〜ん ・・・ ちょ〜高カロリーね ヤバそう ・・・ 」

「 あ 月見 とかあるみたいだよ 

「 つきみ?? 」

「 そ。 目玉焼き みたいなのが入ってるヤツ。 

 季節限定 だってさ。 」

「 あ そう? それにするわ〜〜  ちょっと待っててね 」

彼女は スマホを手にカウンターに駆けていった。

 

    あ は。 か〜〜わい〜〜〜〜〜 

    えっへん みなさ〜〜ん

 

    彼女は ぼくのカノジョ ( 予定 ) なんで〜すう〜〜

 

ジョーは一人 にんま〜〜り するのだった。

 

「 うっふっふ〜〜 いい匂い〜〜 」

すぐにトレイを捧げ 笑顔で彼女は戻ってきた。

「 いっただっきまあ〜す♪ 」

「 はい どうぞ〜 」

「 ・・・ おいし!  これ 美味しいわあ 」

「 そっか〜〜  あ ぼく こーひー お代わりしてくるね 」

「 うん。 あ〜〜 おいし〜〜 」

彼女は 夢中でぱくぱく・・・ 月見 を食べている。

「 ・・・ へへ またシェイクにしちゃった〜 」

「 あ〜〜 それってカロリー高いの 知ってる? 」

「 そうなの? 」

「 そ! ・・・ あ〜〜 ジョーはいいわねえ〜〜〜

 ビッグ○○○ 食べても シェイク何本飲んでも 太らないもんね 」

「 あ は ・・・ 効率悪いよね 」

「 う〜〜〜 ケーキとか死ぬのほど食べてみたい〜〜  」 

「 ダメ なの? 」

「 ・・・ わたし ね。 余分なモノ、食べればちゃ〜んと

 太っちゃうの。 」

「 だって軽いよ、フラン。 」

「 のん のん。 パートナーはね〜〜 ジョーみたく力持ちじゃないのぉ 」

「 ふ〜ん ・・・ 」

「 あ ・・・ でもおいし〜〜 これ♪ 」

「 よかったぁ〜  あ ・・・ タピオカとかの方がよかったかなあ 」

「 タピオカ?  ああ 流行ってるわよね〜 」

「 フランも好き? 」

「 ん〜〜 でもダメよ、あれ 太るもん。 」

「 そ そうなんだ? 」

「 そうよぉ〜〜 だってあれ、デンプンでしょう? 」

「 さ あ・・・?  なにか植物だろ?  

「 でもだめ。 カロリー 高いもん。  カンテンの方がいいわ。 」

「 ふ〜〜ん そうなんだ・・・ あ 仕事、 どう? 

 次の公演ってなに踊るの? 」

「 あ〜〜  今度はねえ 『 レ・シル 』 が回ってきたの 

「 れ しる??? 」

「 あ 知らないわよね  『 レ・シルフィード 』 って・・

 空気の精 なの。 」

「 空気の精???  空気って この空気? 」

ジョーは手をひらひら〜〜〜 させている。

「 そ。 特にストーリーはないのね  」

「 ・・・ 組むの? オトコとさ 」

「 うん。 一応・・・ ソロとあとちょっとね。

 だから〜〜〜 空気の精 が太ってたらまずいでしょ 」

「 ・・・ 食いしん坊の空気の精もいるかも・・・ 」

「 え〜〜〜  あは そうねえ ・・・

 ジョーって 面白い〜〜〜 

フランソワーズは 月見 を齧りつつけらけら笑った。

「 あ  面白い かな・・・? 」

「 うん!  大好きよ〜〜 」

「 え! ・・・ えへへ 〜〜 

彼は一人で赤くなっている。

 

    あは ・・・ なんか気が楽になってきたわ 

    ふふふ ジョーって不思議なヒト・・・

    話してると ほわ〜〜ん とした気分になるの

 

「 あ〜〜〜 つきみ は美味しいし〜 ・・・ 

 あ ねえ ジョー? 」

「 うん なに 」

「 うん・・・ ジョーはどう?  仕事・・・

 カメラの勉強、始めたって言ってたでしょう どんなかんじ? 」

「 あ うん ・・・ そうだなあ 〜〜〜

 面白くて ムズカシイよ 」

「 カメラ・・・って そんなに難しい機械なの? 

 今のカメラって オートなのでしょ? 」

「 あ ぼく、手動のカメラ、使ってるんだ。 まだ使い熟せてないけど・・・

 いや〜 なんていうか ・・・ 奥が深い ってのかな。

 それにさ カメラの操作だけじゃないんだ。 被写体の選び方とか

 撮る角度とか ・・・ 」

「 ひしゃたい? 」

「 そ。 なにを撮るか どう撮るか ってこと。 」

「 あ〜 そういうこと ・・・・ カメラのテクニックだけじゃ

 ダメなのね 」

「 そりゃ テクは必要だけどね。 」

「 ジョーは どんな作品を仕上げたいの? 

「 悩み中・・・ 」 

「 そうなんだ ・・・ 雑誌の仕事に使うのでしょ? 」

「 そうなれればなあ〜 って思ってる。 

 いろんな写真、撮れるようになりたい。 まだまだ < 見習い > 。 」

「 ふうん ・・・ 今は練習中? 」

「 ウン。 この偉大なる相棒と仲良くならないとね〜 」

彼は 側に置いているカメラをそっと撫でた。

「 あ そのカメラね コズミ先生に頂いたのって 」

「 うん♪  カメラの教室に通い始めたって話をしたらね

 コズミ先生が  ・・・ ほら この前、博士のお使いで

 届け物に行っただろ? 」

「 ああ そうだったわねえ 」

「 その時にさ ・・・ 

 

あの日 ―

 

コズミ博士は ジョーを座敷に通てくれた。

  

  「 あ・・・ 玄関で・・・ 」

  「 いやいや わざわざ届けてくれたのじゃから 

   上がってくだされや。 冷たいモノでも飲んで  」

  「 は はい ・・・ 」

  「 ワシも ギルモア君の < 荷物 > を 確認せにゃな 

  「 はい それじゃ ・・・ 失礼します 」

  ジョーは 行儀よく玄関でスニーカーを脱いだ。

 

     カラン ・・・  氷入りのお茶はとても美味しかった。

 

  届け物をしっかり渡し ほっとした後はぼしょぼしょ近況報告を

  始め だんだんと話が弾みだした。

 

  「 ほう? ジョーくんはカメラマン志望かい 」

   「 あ ・・・ そんなのじゃなくて バイトの取材とかに

   役立つかな〜〜って思って 

  「 ほうほう なるほど〜〜  で カメラは? 」

   「 とりあえず スマホでいいか〜〜って 

  「 いずれは仕事に使いたいのだろう? 

  「 そうなればなあ〜 って ・・・ 」

  「 それならちゃんとカメラを用意せんとな 」

  「 えへ バイト代ためて デジカメ 買えればなあ〜 って

   思ってるんです〜〜 」

  「 デジカメ? ・・・ う〜〜ん ・・・

   ああ そうじゃ そうじゃ アレがあったなあ 

   ちょいと待ってておくれ 」

  「 はあ ・・・ 」

  コズミ博士は 奥に引っ込んでしばらくゴソゴソやっていた。

 

     あ〜〜〜  いいなあ ・・・ この部屋・・・

  

  ジョーは う〜〜ん ・・・ と伸びをすると

  ばたん と 座敷に仰向けになった。

 

  天井は高く廊下に向かって開け放たれているので

  涼しい風が 入ってくるのだ。

 

     ・・・ あっは ・・・ きもちい〜〜〜

 

  「 ジョー君 ? こりゃ お昼寝中かい 

  「 !?  あっ す すいません〜〜〜〜 」

  転寝してしまったジョー、 慌てて飛び起きた。

   「 よいよい ・・ なんなら昼寝してゆくかね 」

  「 え い いえ ・・・ すいませんでした。 」

  「 ふぉ ふぉ ふぉ  若い頃は眠いものよなあ 」

  コズミ博士は鷹揚に笑っている。

  「 ほい 冷たい麦茶じゃよ それと  これ 」

  露を結ぶグラスと共に 古びた箱が置かれた。

  「 ? 

  「 ワシの若いころのもんじゃが〜〜 モノはいいんでねえ 」

  開けてごらん、と コズミ氏は箱をジョーの方に押しやった。

  「 いいんです か? 」

  「 おう。 」

  「 ・・・ わ あ ・・・ これって 〜〜 」

  それは 初心者のジョーにでもわかる カメラの名品 だった。

  「 まあ〜〜 古びてるけどなあ 壊れてないと思う。  

   よかったら使っておくれ 」

  「 え!??  ・・・ そ そんな〜〜〜 ぼくなんかに

   こんな ・・・ うわ〜〜〜〜  

  「 ほっほっ いつか コイツに負けない作品を撮れるように

   なれることを 願っておるよ 」

  「 は  はい ・・・!!! 」

 

 

 ・・・ ってことで 頂いたんだ 」

「 すっご〜〜い〜〜〜  ねえ わたしも見たこと、あるわよ?

 伝統がある有名なカメラじゃないの? 」

「 うん。 とてもぼくなんかが持てるもんじゃないんだ。

 だから ・・・ 今はデジカメで練習してる。

 これは ・・・ えへ お護りっていうか 決意表明とか

 ・・・ 見せびらかしたい〜〜って気分もあるけど 

「 あ わかる〜〜〜〜 」

「 いつか これで・・・って思ってる。 

 なかなかキビシイけど さ 」

「 そっか〜〜 そうよねえ・・・ アートは厳しいのよねえ 」

「 アート? ・・・そう かもなあ ・・・ 写真はアートだよなあ

 フランと一緒かも ・・・ 」

「 そうね そうね 」

「 う〜ん ・・・ そうだね うん。 

 あ うん ・・・ そっか〜〜  うん! 」

ジョーは なにかヒントを掴んだ風にみえた。 

「 ジョー。  がんばっちゃう ? 」

「 ん。  がんばる〜〜 」  

「 あ っは。 ジョー がいてくれてよ〜〜かったわ♪ 」

「 え  そ そう? 」

「 ウン♪  わたしも 頑張るわ  ちょっと困ってたんだけど 

 なんか やる気 もらっちゃったわ 」

「 えへ・・・ ぼくも さ 」

「 ね? 」

「 うん 」

二人は 中坊のカップルみたいにほっぺを染めて見つめあっていた。

 

「 あのね ・・・ 聞いてくれる? 」

「 うん なに 」

「 あの ね。  今日のリハーサルでね ・・・ 」

「 うん 」

「 ・・・ なんか うまくゆかなくて ・・・  

フランソワーズは ついさっき、終わったリハーサルのことを

思い返していた。

    

 

 

           *************

 

 

 

  〜〜〜〜♪♪   ショパンのノクターンが軽やかに流れる。

 

「  ・・・ ! 」

  

   最後の音と一緒に 踊り手はポーズを決めた。

 

「 ・・・・ 」

カツン。  マダムが靴音を立てた。

「 フランソワーズ。 貴女、今の踊り どう感じてる? 」

「 ・・・え ・・・? 」

「 振りは勿論 合ってるし 音にも乗ってたわ。 

 この踊り、難しいテクニックはほとんどないわよね 

「 ・・・ ・・・ 」

「 だから 余計に難しいと思うのね。 」

「 はあ ・・・ 」

「 レ・シル って ―  あのねえ  空気の精 なのよ?

 貴女の今の踊り方、なんか とても無機質。 金属的に感じるわ  

 

    き 金属 ・・・?  

    や やだ ・・・

 

フランソワーズは 血の気が引く想いだった。

すぅ〜〜っと 無意識に自分の手を < 視て > しまう。

そこには ぎっしりと機械が 冷たい金属が 詰まっていた。

 

    ・・・機械の 手 ・・・

    そうよ わたし、中身は金属なのよ

 

    踊っていると わかってしまう  の・・・?

 

「 あ それから ピルエットね〜 アンデイオール、アンデダンの連続のとこ

 は 両方ともダブル。  当然でしょ。 」

「 は はい ・・・・ えっと 

フランソワーズは すぐにその部分 ― ピルエット・アンデイオール と

 アンデダン を くるくるとダブルで続けて回ってみせた。

「 あ〜〜 ・・・  」

「 ・・・? 

「 あのね、この踊りは ワルツ。  三拍子。 今のは あなた、 ただ回っただけ。 」

「 ・・・ あ ・・・ 」

「 レッスンじゃないのよ?  シルフィード として回ってちょうだい。 」

「 ・・・ は  はい 

「 今回の 『 レ・シル 』 は  ワルツは フランソワーズ

 マズルカは リエ、 プレリュード は メグミ に

 踊ってもらうの。  振り自体は難しくないでしょう? どの踊りも。

 だから ― さっきも言ったけど なおさら大変よね?  」

「 ・・・ あ  そ そうですね 

 ふふん ・・・ と マダムは不思議な笑みを浮かべている。

「 よ〜〜〜く 考えてみて?

 貴女ならどう踊る?  貴女の 空気の精 を踊ってほしいの。 」

「 ・・・ は はい ・・・ 」

「 次のリハ 期待してるわ。 リエやメグミも 奮戦してるわよ〜 」

 じゃあ ね、お疲れさま・・・と マダムはスタジオを出ていった。

 

    空気の精 ・・・ 空気 ・・・・?

 

    金属のわたしが 踊れる ・・・ わけ ない・・・

 

 

 カツ ― ン ・・・  履き慣れたポアントが とても重く感じた。

 

 

 

    サ −−−−−−−   頭からシャワーを浴びた

 

身体だけじゃなくて  アタマも冷やしたかったし 涙も流したかったから・・・

「 ・・・ ふう 〜〜〜  ・・・ 

 ああ 少しはさっぱりした かも ・・・ 」

シャワー・ブースから出て びしょくたの髪を拭く。

「 ・・・ あ〜あ ・・・ 汗はちゃんと流れるのに。

 涙もちゃん零れるのに  ―  わたしは 金属でできてる ・・・ 」

 

   ガサゴソ ・・・ 大きなバッグの中から新しいタオルを探す。

 

「 えっと ・・・ もう一枚 もってきた はず ・・・ 」

 

      あ。 あ!  待ち合わせ してたんだ〜〜 !!  

 

突如 ジョーとの約束を思い出した!

「 きゃ〜〜〜〜〜  いっけな〜〜〜い〜〜〜〜〜 !!!!

 わ〜〜〜  髪 びしょびしょ・・・ どうしよう 〜〜〜〜  

フランソワーズは 下着姿のまま、 更衣室の中でうろうろ焦りまくっていた。

「 わ〜〜〜ん  どうしよう ・・・ 」

 

 ― バタン。  更衣室のドアが開き 汗まみれの女性が入ってきた。 

 

「 はあ〜〜〜 終わった 終わった ・・・ 」

「 ・・・ あ  さゆり先輩   お疲れさまでした 」

「 あらあ  フランソワーズ ・・・ そっちも終わったのぉ? 」

「 は はい ・・・  

「 お疲れさま〜   あ〜〜 もう 今日のことは忘れよっと ・・・

 あら どうしたの?  ・・・ 具合 わるい? 」

フランソワーズよりすこし年上の彼女は 稽古着を脱ぎ始めていたが

あれ、という顔をした。

なにしろ いつも大人しい後輩が 髪から雫を垂らしたまま

 呆然としているのだ。

「 いえ  あの ・・・ 髪 びしょびしょで 」

「 あ〜 」

「 友達との約束 わすれてて・・・ どうしよう〜〜〜 」

「 ?  まずは髪、拭いて 急げば? 

「 あ! そうですよね 」

「 ??  ねえ 大丈夫? ・・・ あ〜〜 リハ、マダムにしごかれた? 」

「 ・・・ は  はい ・・・ 」

「 あはは そりゃ アタマからシャワーしたくなるわよねえ ・・・

 私だって 水かぶりたいもん  ま あんまし気にしないことよ。

 今日のことは もう忘れること。 」

「 は はい ・・・ そうです ね 」

「 そ。 ぐだぐだ引きずらないで  次 頑張る〜〜   オッケ? 」

「 は はい  ・・・でも 」

「 ?  」

「 約束あるのに〜〜  どうしよう こんな髪で ・・・ 」

「 あっは♪  デート? 」

「 え い いえ  ランチたべよって ・・・ 友達と 

「 そ〜かい そ〜かい☆  あ〜 あのイケメン君かあ〜 

「 え いえ  そのう〜〜 」

「 あの茶髪彼氏 でしょう? 優しそうだよね〜〜〜 

「 え ええ ・・・ 」

「 公演の時とか 迎えに来てくれてるじゃん? 皆 知ってるわ。 

 大荷物、ひょいって持ってくれてさ〜〜〜  いいな〜

 うふふ〜〜〜 お似合いよん♪ 」

「 あ そ そうですか 」

「 そうです♪ 」 

「 ・・・ 」

「 大丈夫。 ちゃ〜〜〜んと カワイイ から! 」

「 は  はい ・・・ 」

「 だから! さっさと 髪 拭いて 〜〜 急げっ 」

「 は はい 」

フランソワーズは あたふた支度を始めた。

 

「 ・・・ お お先にシツレイします〜〜〜  

 

結局、金色の髪から雫をとばしつつ 更衣室を飛び出していった。

「  やれやれ・・・ ホント 天然なんだなあ あのコ・・・

 ま そこが カワイイんだけどね〜〜〜 

 あ〜〜〜〜 私も 頭からしゃわ〜〜〜 しよっと 」

先輩は 勢いよくシャワー・ブースに飛び込んだ。

 

 

 

          **************

 

 

 

お腹が満たされると 気分的にも余裕がでてくる。

ジョーも フランソワーズも のんびりした雰囲気になってきた。

 

「 ふうん? ・・・ ねえ 髪、濡れてるよ? どしたの 

「 え ・・・あ やだ〜〜 まだ乾いてないんだ 」

「 あ シャワー ?  

「 そ。 アタマから シャワ〜〜〜 しちゃったのよ 

「 あは 気持ちよさそ〜〜〜 」

「 だってねえ ・・・ わたし ちょっと苦戦してて ・・・

 ここに来るまで  ― 落ち込んでたの 」

「 落ち込んで?  フラン 珍しいね 」

「 あらあ わたしだって落ち込むこと、あります。

 リハで もうけちょん・けちょん よ〜〜  」

「 ・・・ 今回、ムズカシイ踊り なの? 

「 ううん〜〜〜 テクニックは そんなに ・・・

 でも ね ・・・ ねえ ジョー 聞いていい 

「 ?? 」

「 空気の精 って どんな感じだと思う? 」

「 え??? く 空気の精?  あ さっきも言ってたよね

 ねえ ・・・ それって  あ〜〜  ファンタジー? 」

「 ・・ う〜ん まあ そんなものかなあ 

「 ファンタジーを踊るわけなんだ? 」

「 ・・・ そう でもないんだけど ・・・

 月明かりの森でね〜〜  詩人が瞑想に耽りつつ散歩していると

 妖精たちが 現れて 踊りました 〜〜 っていう設定なの。 」

「 ふ〜〜ん それだけしか縛りはないわけ ? 」

「 そうなんだけど ・・・  その不思議な妖精を踊るの

 ふわふわ〜 というか ・・・ 向うが透けて見えそうな〜〜 

「 へえええ  あ  ニンゲンじゃないんだものね

 羽根とか生えてる?  」

「 ・・・ あ〜〜 生えてる!  衣装のね 背中・・・っていうか

 この辺に 羽根がついてる時もあったわ 」

フランソワーズは ウェストの後ろ辺りで手をひらひらさせている。

「 ふうん   飛べるって いいよね 〜〜 」

「 そうよねえ  ・・・ わたし その点はジェットが羨ましいのね

 飛んでみたいなあ  

「 そうだな〜〜 ぼくも ず〜〜っと飛べたらなあって思うな 」

「 わたしね こう〜〜 羽根が生えてて ふわ〜〜りふわふわ〜〜〜

 ふぁさ〜〜〜って飛んでみたい♪ 

「 フランらしいなあ  あ それこそ 空気の精 じゃん♪ 」

「 え?  あ ・・・ そう ね・・・

 ・・・ そっか〜〜〜  そう よねえ ・・・ 」

フランソワーズも、またなにかインスピレーションを 得たのかもしれない。

  そう よねえ・・・ を繰り返しつつ じ〜っと目の前のテーブルを

見つめている。

「 羽根あるんだもん、 ふわ〜〜〜ん ・・と 浮いてたら

 空気の妖精 かも。  空気って いっつもあるじゃん ほら 」

「 そう そうよねえ ・・・  

「 きっとさ〜 フランの空気の精は ふわ〜〜んふわふわ〜〜って

 優しいんじゃないかな  

「 え ・・・ 一応ねえ ワルツ・・・三拍子なの 」

「 ふうん  空気は三拍子 かあ  ふうん  」

「 だからね〜〜 ピルエット・・・ って 連続で回るトコがあるんだけど

 それもね  空気の精 として回らなくちゃならないの 」

「 ふうん ふう〜〜ん ・・・ 空気は 三拍子 かあ 」

「 この作品では ね。  現実に戻っちゃダメって。 」

「 へえ〜〜〜  」

「 他のダンスはよくわかんないけど ・・・

 クラシック・バレエはね〜〜  現実じゃない世界 なのよ。

 だから こう〜〜 現実っぽいとこ、見せちゃだめなの。 」

「 ふう〜〜〜ん  へえ〜〜〜  非現実の世界 かあ・・・

 あ だから 空気の精 とか 白鳥姫 とかなんだ? 」

「 多分・・・ 」

「 そっか〜〜〜  なるほど ・・・ ふ〜〜ん 」

今度は ジョーが 夢見る目つき をする番らしい。

温かい茶色の瞳が ほわ〜〜ん と中空を眺めている。

「 ? どうしたの  ジョー 」

「 ・・・ え ・・・ あ ごめん〜〜〜 

 なんか ちょっと ・・・ いいなあ〜って思ってさ。 」

「 なにが 」

「 きみの さ、 非現実の世界 を表現するために 現実に汗流して

 何回も何回も練習するんだよね 」

「 あ ・・・ そ そう かもしれないわね 」

「 そうだよ〜〜  うん・・・ 」

「 ―  ありがと ジョー。 ちょっと なんか ・・・

 浮上のきっかけ になりそう 〜〜 」

「 へえ そう?  ぼくもさあ ・・・

 なんか テーマにしたいモノが 見えてきたかも。 ぼんやりだけど 」

「 うふふ・・・ 」

「 えへ・・・ 」

 

ほんわ〜りした気分で 二人は見つめあっている。

 ― どこから見ても で〜と なのだが ・・・

 

     え?  お友達とランチしてたのよ?

 

     びっぐ○○○ と シェイク、美味しかった〜〜

 

とても満足し いい〜〜〜気分で 二人は一緒に帰っていった。

 

 

 

  ―  数日後のこと ・・・

「 ふうん ・・・・ 」

「 チーフ ・・・ あのう ・・・? 

ここは ジョーのバイト先の編集部。

昼休み、 彼はチーフを務める女性に写真を見てもらっていた。

「 ・・・ なかなか上達したよね 島ちゃん 」

「 そ そうですか ・・・ 」

「 あ〜 テクニックは なかなか。 

 聞くけど。  島ちゃんはなにを目指してるわけ? 

「 ・・・ なに って ・・・ 」

「 報道写真? それとも アート系? 

 これ  よく撮れてるけど 目的不明。 」

「 ・・・・・ 」

ジョーは ぽん、と返された写真をじ〜〜っと見つめていた。

 

    彼の大事な女性 ( ひと ) の後ろ姿  を・・・

 

 

Last updated : 09,10,2019.              index    /    next

 

 

*********  途中ですが

『 レ・シルフィード 』 については 調べていただければ

映像とかたくさんあると思います〜〜

なんか初々しい93になりそう・・・ (*^^)v